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The Pit 穴/“船乗り” とお祖母ちゃん

ラトビア映画 (2020)

ラトビア国際映画賞(Lielais Kristaps)に作品、監督、女優、助演男優、助演女優、脚本、撮影、作曲の8部門でノミネートされ(発表はコロナで2022年に延期)、リューベック・ノルディック映画祭(ドイツ)、タリン・ブラックナイト映画祭(エストニア)、バルト海デビュー映画祭(ロシア)で作品賞を獲得した作品。だから、主演は10歳の少年だが子供向き映画ではない。映画のサブ・ストリーは題名になっている穴。正しくは人工の竪穴。そこに少女が落ち、半日放置された罪を10歳のマルコスが一身に負う。しかし、実際にどういう顚末でその事件が起きてしまったのかは、映画の中で、“回想” という形で、ある意味 意地悪なことに、逆順で示されるので、マルコスの容疑が晴れるまでに時間がかかる。映画のメイン・ストーリーは、首都リガにいたマルコスを、不幸な立場から救って田舎に呼び寄せた祖母と、その少女時代を攪乱させたトランスジェンダーの同級女生徒の間の悲しい運命。そして、その結果として、“船乗り” という通称名になって一生を孤独に過ごすことになった “男性” が、少女時代の祖母の写真を元に、祖母の息子が描いた図柄を使って作ろうとした未完成のステンドグラス。このステンドグラスを、自殺に追い込まれた “祖母の息子” の画才を継いだマルコスが、“船乗り” と一緒になって完成しようと、祖母には内緒で頑張る。この2つのサブとメインのストーリーに加え、祖母の長男、“マルコスの伯父” の一家の不幸な話が三つ巴になって、これまで観たことのない世界を作り出した。名作ならではの醍醐味を楽しむことができる。

登場人物の紹介から。マルコスは最近〔数ヶ月前なのか数週間前なのか数日前なのかは不明〕、両親がいなくなって〔父は死亡し、母は息子を引き取るのを拒否〕、首都リガから田舎に住む祖母の元に引き取られた10歳の少年で、父に似て絵を描くことが大好きで、リガの小学校では、絵のコンペで常に1位だった。ソルヴェイガはそのマルコスの祖母。かつて教師をしていたらしく、今では、村の混成合唱団の指揮を取っている。教師だったせいか、マルコスには厳しく当たる。ソルヴェイガの少女時代、親しかった同級生が、男の子になりたいという夢を持っていて、ソ連占領下にあって、その醜聞は その同級生を退学・精神病院送りにし、その人生を暗転させた。ソルヴェイガの次男、“マルコスの父マリス” は、絵を描くことが大好きで、といって、画家として成功したようには見えず、何らかの原因で死に至る。そんな父に見切りをつけた “マリスの妻スヴェタ” は、夫の死を機会に、夫に似て嫌悪していた息子マルコスを捨て、愛人の元に走る。少女時代、ソルヴェイガのことが好きだった “少女” は、退学・精神病院送りのあと どうなったのかよくわからない。映画では、ソルヴェイガ同様、老齢になっていて、重症の糖尿病患者。通称 “船乗り” として、村から離れた森の中に一人でひっそりと暮らしている。体力的に、村の薬局まで薬を取りに行けなので、ソルヴェイガが昔のよしみで薬を届けているが、昔の不祥事が禍根となり、会おうとするのを避けている。ソルヴェイガの長男、“マルコスの伯父アルベルト” は、ソルヴェイガの近くに住んでいるパッとしない老人。その息子ロベルトは村で修理店を営んでいる。しかし、アルコール中毒のせいもあり、非常に乱暴な性格で、なかなか子供を産まない妻のスマイダに暴力を振るい、スマイダからは怖れられ、嫌われている。ソルヴェイガの近くに住んでいるもう一人の住民が、村のゴシップ屋のサンドラという口達者な女性。娘のエミリーも悪い性格の少女だが、ある日、絵を描いているマルコスの画帳を奪い、マルコスの父を侮辱したことで、マルコスの怒りを買う。マルコスは エミリーに お灸を据えてやろうと、彼しか知らない森の中の竪穴にエミリーを意図的に落とす。エミリーに怪我はなかったが、サンドラはそれに対し、見苦しいほどの過剰反応をする。性悪サンドラの娘のエミリーも性悪だったが、エミリーの兄も性悪。彼に追われたマルコスは、森の中を逃げるうち、偶然 “船乗り” の家に遭遇し、初対面の印象は最悪だったが、知り合うきっかけとなった。そして、誤解が解けると、マルコスは、“船乗り” の小屋の窓に置いてあった未完成のステンドグラスに強く惹かれる。そして、完成部分の原画を 父マリスが青年の頃に描いたと知り、一番肝心の残された中央部分の原画を書き、“船乗り” が集めた色ガラスを切り、ステンドグラスを作ることに全精力を傾ける。

主役のマルコスを演じるダミル・オナツキス(Damir Onackis)に関する情報はゼロ。ただ、どこかのレビューに、演じるマルコスと同じ年齢と書いてあったので、撮影時恐らく10歳。これが映画初出演。かなり難しい役だと思うが、見事に演じている。

あらすじ

映画は、1人の少年が、森の中を歩く場面から始まる。映るのは脚だけ(1枚目の写真)。そして、その後も何回も使われる言葉。「約束は約束だ」。歩く道は、野道から村の裏手の草むらへ。少年は、池越しに村の道を走る “子供が乗った2台の自転車” を見て、木の陰に隠れる〔このことに意味はあるのだが、この時点では分からない〕。自転車が走り去ると、少年は村の1本道に出て歩き始める〔ここまで、ずっと、カメラは少年の後を追っているので、背中しか映らない〕。そして、監督名が表示されたところで、道から逸れて1軒の家に向かう(2枚目の写真)〔あとで、祖母の家だと分かる〕。少年は、階段を上がって 開きっ放しのドアから中に入ると、日本のように靴を脱ぎ、家の中の階段で2階に向かう。ここで、映画の題名が表示される(3枚目の写真)。

2階の自室に入った少年は、窓の外を見ながら、再び、「約束は約束だ」と言う。「君は約束に合意したんだ。僕に怒ってるかい? 怒るなよ。君は友だちじゃないんだ」と、部屋の壁を埋め尽くす絵に向かって話しかける(1枚目の写真)。そのあと、少年は、ベッドに横になって 超小型の手回しオルゴールをくるくる回す。すると、先ほどの記憶が一瞬蘇る。丸い人工の穴の縁に立った少年が 下を見下ろしながら、「秘密は気に入ったか?」と訊く(2枚目の写真)。すると、下から、「お願い、マルコス」という 少女の声が聞こえる〔僅か5秒のシーン〕。写真の左下隅には、黄色の数字が入っている。これらの写真は、このあらすじの中で9枚使われているが、すべて近過去の一連のシーンで、起きた順に「1」~「9」までの番号が付いている。すると、いきなりマルコスが被っていた敷布が乱暴にはがされ、「寝てるのかい? 病気? 急いで! 出かけるよ!」と 返事も聞かずに言葉が並び〔顔も映らない〕、さっと部屋から出て行く。下からは車のクラクションが聞こえ、さっき声をかけた老婆が、「ロベルト 来てくれてよかった。でないと、遅刻してたわ」と言っている。そして、車の中。前列の運転席にはロベルト、助手席には その父親のアルベルト、後列の運転席側には老婆、助手席側には若い女性、中央にマルコスが座っている(3枚目の写真)。あとから、老婆の名前はソルヴェイガで、主人公マルコスの祖母だと分かる。そして、アルベルトは “ソルヴェイガの息子” で “マルコスの伯父”、従って、ロベルトは “マルコスの従兄” にあたる。若い女性はロベルトの妻スマイダ。これから、ソルヴェイガとアルベルトが向かう先は村の公民館。そこでは、ソルヴェイガが指揮を取り、村の混成合唱団の練習が行われる。そして、ロベルトは父をそこへ送って行く途中でソルヴェイガを拾った。マルコスは、祖母のソルヴェイガのお供で同行させられている。ソルヴェイガは、バス〔男性低音〕が足りないので、ロベルトにも合唱団に加わるよう勧めるが、アルベルトは、歌うのは酔っ払った時だけだと否定する。そのあと、ソルヴェイガは話題を変え、スマイダに子供を作るつもりはないのかと尋ねる。ロベルトも乗り気なのだが、スマイダは、「そのうち」と答えただけ。ソルヴェイガは、息子のマリスがマルコスを作ったのは23歳の時だと話す。これで、登場人物の親族関係がすべて分かる。ここに名前が出てこなくて、後でワンシーンだけあるのは、マルコスの最低の母親スヴェタだけ。

1枚目の写真は、公民館での合唱団の練習風景。矢印が示すように、ソルヴェイガは一番前に立ち、マルコスは合唱団からは離れて座って絵を描いている。練習中、いきなりドアが開き、1人の中年女性が姿を見せ、「誰かエミリー見た人いる?」と訊く(2枚目の写真)。マルコスが 時々エミリーと遊んでいることを知っている祖母は、「マルコス、居場所知ってる?」とも尋ねるが、マルコスは肩をすくめただけ(3枚目の写真)。ソルヴェイガは、「サンドラ、ここは公民館で、幼稚園じゃないのよ」と言い、闖入者を追い出す。もともと無礼なたちのサンドラが、何も言わずに立ち去ったので、ソルヴェイガは、「『お邪魔して失礼しました』 じゃあ、もう一度」と、サンドラが言うべき言葉を代わりに行った後で、練習の再開を促す。

夜になり 雨が激しく降り出す。祖母は薪が濡れてしまうのを心配するが、マルコスは別なことが心配になり、雨靴を履こうとする(1枚目の写真)。「どこに行くつもり?」。「行かないと」。「今? 夜中に? 雨の中? 後になさい」。「どうしても」。「どこにも行っちゃダメ。ここにいなさい!」。すると、そこにサンドラがノックして、「どうぞ」も待たずにドアを開ける。それを見てマルコスが逃げ出し、サンドラは 「このクソチビ!」と言って後を追うが(2枚目の写真)、そこに祖母が割り込む。「何なの?」。「『何なの?』 あいつに訊けば?」。「どうしたの? なぜ、そう攻撃的になるの?」。「リッチー〔犬〕が見つけてくれたのよ」。「誰を見つけたの?」。「『誰を?』 考えたくもないわ… 『誰を?』 エミリーよ!」。「エミリー?」。「古い竪穴の中」。「竪穴って?」。「そんなこと、どうだっていいでしょ!」。「落ち着いて、初めから ちゃんと話して。竪穴の中にいたエミリーを犬が見つけたのね? 何て恐ろしい。無事だったの?」(3枚目の写真)。「雨が降る真っ暗な森の中で、何かあったらと、どんなに心配したことか!」。「恐ろしいことね。でも。マルコスとどういう関係が?」。「エミリーが 何があったか話したのよ」。「まさか。マルコスは、そんな子じゃないわ」。「あいつがどんな人間か分からないほど盲目なの? こんな恐ろしいこと、10歳の子供じゃなくて、キチガイのすることよ」(3枚目の写真)。

サンドラが帰った後、祖母は、ベッドで横になっているマルコスに、「何が起きたの? エミリーに何をしたの?」と詰問する。「フェアだったよ」(1枚目の写真)。「何がフェアなの?」。「フェアだったんだ」。「何がフェアよ! 女の子は死んでたかもしれないのよ! 大変なことをしてくれたわね!」。そう吐き捨てて祖母が部屋を出て行くと、マルコスはすぐにベッドから飛び起き、ドアから顔を出して怒鳴る。「こんなトコ嫌いだ! ここに住んでたくなんかない! 僕は、お祖母ちゃんのモノじゃないんだ!」(2枚目の写真)。それを聞いた祖母はすぐ戻って来ると、「今、何て言った? 『モノじゃない』? あんたには 『フェア』に見えても、あたしには そうじゃない。みんなが、あたしをどんな目で見ると思うの? あたしは ここの住民なんだよ! サンドラみたいな女に、怒鳴り込まれるなんて真っ平だわ!」と 怒鳴り返す(3枚目の写真)。

夜、車の中で。この映画に関して、情報は少なく、このシーンの意味が最初掴めなかった。先の夜のシーンの直後に、何の説明もなく、夜間運転のシーンになるので、一体何かと思わされた。それを解決したのは、このシーンの最初に映る1枚目の写真。これを全く同じ角度でのグーグル・ストリートビューが2枚目の写真。なぜ、1枚目の写真で場所が特定できたかと言うと、それは、橋の中央に何本も斜めのケーブルが映っていたから。これは斜張橋という橋の形式で、ネットで「ラトビア+斜張橋」で調べると、首都リガのラウガヴ川(Daugavu Rīgā)に架かるヴァンス橋(Vanšu tilts、橋長625m)だと分かった。そして、車はリガから西に向かって離れる方向に走って行く。ということは、このシーンは、直前のサンドラのシーンの続きではない。マルコスは、以前リガに住んでいて〔あとで分かる〕、父の死後祖母に引き取られた。だから、このシーンは、車の運転ができない祖母が、自分と同じ村に住む長男のアルベルトに頼み、マルコスを乗せてリガを離れた時の場面だと推定できる。写真の右下隅の黄色の」は、数ヶ月以上過去のシーンを意味する。車の中で、祖母は、「マリス〔祖母の次男、マルコスの父〕の不調は、あの女〔マリスの妻、マルコスの母〕が出てった時から始まったのよ。きっとこうなると思ってた」とアルベルトに話す。「マリスは天国にいるよ」。「どうして分かるの? 誰もそこから帰って来た人なんかいないのよ」。マルコスが、突然、「お祖母ちゃん、携帯 置いて来ちゃった」と言い出す。祖母:「戻るには、離れ過ぎたわね。我慢なさい」。

朝、マルコスがベッドで眠っている。先ほどのシーンの直後なので分かりにくいが、これは、1つ前のサンドラが喚き散らして出て行った夜の次の日の朝。祖母が携帯で孫のロベルトと話しながら部屋に入って来て、マルコスを起こす。祖母は、ロベルトに、彼が経営している車の修理店で、マルコスを9月まで働かせてくれないかと頼んでいる。昨夜の “事件” から、マルコスを 夏休み中フラフラ遊ばせず、実務経験を積ませて、“まともな” 子供にしようと考えたからだ。話はまとまり、仕事は明日からと決まる(1枚目の写真)。ロベルトは最後に、「もし彼が8時までにここに来なかったら、歩くことになる」と冷たく言う〔家と店は離れている〕。マルコスは、祖母の作ったパンケーキの上にジャムをつけている。祖母:「明日から、ロベルトの店に行きなさい」。マルコス:「そこで、何するの?」。「仕事を手伝うのよ。役に立つことを学べるわ」(2枚目の写真)。「絵を描かないと」。「後で描けばいい」。「ロベルトのトコなんか、行きたくない」。「希望を訊いてるんじゃない。今日は、薪の整理を手伝いなさい」。

マルコスが自転車に乗って村の一本道を走る。途中ですれ違った2人連れの女性が、危険人物を見るような目でマルコスを見るので、サンドラが触れ回ったことが分かる。そして、このシーンが先ほどの朝食のシーンの続きだということも。というのは、マルコスが自転車を停めた柵の中のテーブルで遊んでいたのが、昨夜の騒動の原因となったエミリーだからで、普通ならマルコスが一番避けると思われる人物だったから。マルコスは、「何してる?」とエミリーに声をかける。柵のところまで歩いてきたエミリーは、嬉しそうな顔で、「新しい携帯もらったの」と自慢げに見せる。「リッチーが見つけたのか?」。「そうよ」。「ママがね、あなたと話しちゃダメだって」。「そうか?」。そう言うなり、マルコスはエミリーの携帯を奪う。「私の携帯、返してよ!」(1枚目の写真、矢印が携帯)。エミリーは、何度も叫ぶ。すると、場面は昨夜に切り替わり、竪穴に落ちたエミリーが、何度も、「助けてよ!」と頼むシーンに変わる(冒頭で「」とつけた写真)。マルコスは、「秘密は気に入ったか?」と訊く〔“秘密”は、竪穴の存在〕。「お願い、マルコス。助けてよ。ここから出して!」。「そうは簡単じゃないぞ。これから数える。もし、指が僕を向いて止まれば 助けてやる。もし、君を向いたら、何とかして自分で出るんだな」。こう言うと、マルコスは、1単語ずつ腕を上下させながら、「ピアノの上のワインのグラス、飲んだら誰でも死ぬ」と言い、最後の単語を言い終えた時、腕は下を向いていた。「じゃあ、さよならだ」。「待って、マルコス!」。「約束は約束だ」〔冒頭で使われた言葉〕。エミリーは、「マルコス、お願い、助けて!」と必死に頼む(2枚目の「」の写真)。この記憶は、サンドラの罵声で断ち切られる。「こら! ここから、すぐ消えな!」。マルコスは、すぐに自転車で逃げる(3枚目の写真)〔マルコスは なぜ携帯を盗んで 汚名に上塗りをしたのだろう? リガを出た時に忘れてきた携帯を、祖母が買ってくれなかったから?〕

マルコスが村の中の道を走っていると、行く手にエミリーの兄と、もう1人の少年がいて、自分に気付いて立ち上がったのを見る(1枚目の写真)。マルコスは、自転車をUターンし、逃げ出す。それを見た2人は、マルコスを追いかけ始める(2枚目の写真)。マルコスは、森の中の野道に逃げ込むが、2人もしぶとく後を追う(3枚目の写真)。

捕まったら何されるか分からないので、マルコスも必死だ。しかし、途中に転がっていた木の根にぶつかって転倒して地面に投げ出される。それでも、逃げることが最優先なので、自転車は放っておいて森の中に逃げ込む(1枚目の写真)。2人も、そこに自転車を放り出し、走って追いかける。エミリーの兄は、太った大きな少年だが、「殺してやる」と叫ぶ。森の中をどこまでも追いかけられるかと心配して観ていると、人が住んでいる場所に出て、救いの神の一軒家に逃げ込む(2枚目の写真)。一方、追いかけてきた2人は、何かを見て逃げ去る。その直後に現れたのは、猛烈に太った老いた男性。2人は、彼が怖かったのだ。マルコスが小屋に隠れていると、ゴム長靴にズボンの先を突っ込んだ脚が、納屋の中に入ってくるのが見える。すると、いきなり頭髪をつかまれ、「逃げなかったのかい、このクソ泥棒め!」と怒鳴られる(3枚目の写真)。マルコスは、足で、相手の脚を蹴ると、痛くて手を放した隙に逃げ出す。男は、杖を振り上げると 「今度見つけたら、撃ってやる!」と怒鳴る。

森の中の一軒家から歩いて祖母の家まで戻ったマルコスは、疲れきって玄関の階段に座り込む(1枚目の写真)。すると、裏庭で薪を運んでいた祖母が、孫が帰ってきたのを目ざとく見つけ、手伝うよう呼び寄せる。マルコスは、短く切られた薪を専用のネットのようなものに入れて小屋まで運ぶ(2枚目の写真)。薪を、“薪の山”の上に置いていると、「マルコス!」と呼ぶ声が聞こえる。何かと思って小屋を出ると、祖母が芝生に座り込んで 左足を痛そうに触っている〔足首をひねった?〕。マルコスは杖代わりになる棒を持って駆け寄り、祖母が立ち上がるのを助け、そのまま肩を貸す形で家まで一緒に歩いて行く。祖母は、キャベツの葉を置いた上から圧迫包帯で足をぐるぐる巻きにする。それをしながら、祖母は、「困ったわ。船乗りに薬を届けないと」と、言い出す(3枚目の写真)。それを聞いたマルコスは、「僕が届けるよ」と言い、祖母もホッとして、道順を口で説明する。ところが、そこは、さっき怖い思いをして逃げてきた一軒家だった。それを知ったマルコスは、「僕、行かない。代わりに薪を運ぶよ」と拒否するが、祖母は 「薪は待ってくれるけど、船乗りは薬がないと死んでしまう」と言い、自分の携帯を持って来させると、船乗りに電話をかけ、孫のマルコスが代わりに薬を持って行くと話し、マルコスには、ドアの脇の樽の上に包みを置いてくるだけでいいと安心させる。この “孫” が問題で、付属の英語字幕では “grandson” となっているが、流布している別の英語字幕では “nephew(甥)” となっている。付属のルーマニア語字幕では “nepotul(甥)” 、ハンガリー語字幕では “unokám(孫)” 。孫と甥では全く違うので困ってしまった。そこで、“grandson” のラトビア語が “mazdēls”、“nephew” のラトビア語が “brāļadēls” であることを調べておき、映画でどちらの発音が聞こえるかをチェックしたら、“mazdēls” だった。従って、祖母の孫が100%正しい。

マルコスは、さっき歩いて家まで戻った道を、もう一度歩いて “恐怖の家” に渋々向かう。そして、肩に掛けてきた布バッグを樽の上に置いて振り向くと(1枚目の写真)、怖い船乗りがいて、「お前さんが、ソルヴェイガの孫か」と言う。マルコスは、「僕は泥棒じゃない。クリスチャンたちから隠れてたんだ。僕を殺そうとしたから」と弁解する。「森の中に自転車があった」。「それ 僕のだ」。「小屋に行って、持ってお行き」。マルコスは、怖さが先に立ち、自転車を回収してくれたことにお礼も言わず、小屋に向かう。そして、小屋に入った突端、“絵の好きなマルコス” が惹かれたのが、窓に掛けられた未完成のステンドグラス。そばに寄ってじっくり見ていると、そこに船乗りが入って来て、「何を こそこそしてる?」と訊く。マルコスは、何も言わずに自転車を牽いて小屋から出て行く。そのあと、船乗りが、小さな囲いの中で数羽の鶏を飼っているのを見ながら、マルコスが 「小屋に ステンドグラスなんて、変な感じ。教会やお城なら分かるけど」と言うと、船乗りは「贈り物だ。ある人にあげようと思って」と答える。「贈り物? ステンドグラスなんか、どうやって贈るの?」。「家に運ぶためじゃない。あそこに置いておくだけ」。「完成したら、ラトビアで一番きれいな小屋になるね。世界で一番かも」。「スケッチ〔ステンドグラスの原画〕に絵の具をこぼしちゃって」(2枚目の写真)〔だから、未完成〕。「僕、描き直せるよ」。「もういいから、帰るんだ」。そう言われても、絵のことなので、マルコスも粘る。「僕が描き直せば、完成できるよ」(3枚目の写真)。

船乗りは、小屋の真ん中に置いてある大きな台の上の “ゴミ” をマルコスに手伝わせて片付けると、台の上に描かれた線描画を見せる(1枚目の写真)。一部は何かがこぼれていて全く見えない。「満足したかい?」。「マリス・カトラプカンズ。僕の父さんが描いたの?」。「ああ。お前さんより、ちょっとだけ年上の頃だった。17か18だろう」。「僕、代わりに描くよ」。「お前さんが言ってるほど巧いか 疑問だな」。「疑うの? 絵画コンクールでは、いつも一等だったんだ」。「そりゃ良かった。いいから、もう お帰り」。そう言って、船乗りは 小屋から出て行ってしまう。あきらめきれないマルコスは、ガラスの破片に船乗りの顔の線描画をマジックで描く。そして、それを家の戸口に座っていた船乗りに見せる(2枚目の写真)。「上手だな」。「僕は、世界的に有名な画家になりたいんだ」(3枚目の写真)「お金だっていっぱい稼げるし」。「悪くない」。「じゃあ、スケッチ描くよ」。「あの女の子に、何したんだい?」。「誰から聞いたの?」。「ウチの雄鶏は、毎朝 地元のニュースを教えてくれるんだ」。「あいつが悪いんだ」。「目には目だな」。「あいつ、邪悪だから」。「お前さんは? 憎しみを募らせちゃいかん。でないと、居場所がなくなるぞ」。そう注意しながら、船乗りは1枚の古い白黒写真を渡す(4枚目の写真)。

祖母の家に帰ったマルコスは、「お祖母ちゃん、船乗りと友だちになったよ」と自慢げに報告するが、祖母は、それを歓迎するどころか、「なんでこんなに遅くなった?」と訊く。「彼って、すっごく大きな小屋持ってて、そこには、ホントは窓じゃないけど、大きな窓があるんだ」と、祖母の質問は無視して、嬉しそうに続けるが(1枚目の写真)、その興奮は、祖母の、「包みを置いたら、小屋なんかでうろうろせずに、帰ってこなきゃダメでしょ」の 冷たい言葉で醒める。マルコスは、エミリーに取られてなくなった “絵を描くノート” を探して棚から引き抜くと、その上に置いてあった写真が床に落ちる。それは、先ほど船乗りが見せてくれた写真と全く同じものだった(2枚目の写真)。マルコスは、2人の間には、何か深い関係があるに違いないと思い、「お祖母ちゃん、なぜ船乗りに包みを届けてあげるの?」と訊くが、答えたくない祖母は、「何か食べたら、薪を小屋に運びなさい」だった。そして、翌朝、ロベルトの車が マルコスを迎えに家の前に着く。2階の寝室にいたマルコスは、夜のうちに、船乗りからもらった女性の写真を元に、未完成のステンドグラスにぴったりはまるよう、顔の部分の “ガラスを組み合わせた” 絵をノートに描き終わっていたが(3枚目の写真)、それを、祖母に見つからないよう、カバンに入れる。

ロベルトの車の後部ドアを開けて乗ろうとすると、座席の上に大きな物が置いてある。どうしようかと戸惑っているマルコスに、ロベルトは 「何、待ってる、坊主?」と冷たく言う。マルコスは、重い箱をずらして車に乗り込む。そして、自分の修理店の前まで来ると、「道は覚えたな? 明日からは自分で来い」と言い、さっさと建物の中に入って行く。甥に対する態度としては、不親切この上ない。建物の中は、それなりに大きな工場になっていて、使用人は2人。ロベルトは、もう1人の工員と一緒にピットに入り、トラックの底部の修理を始める(1枚目の写真)。そして、壁際に座っているマルコスに、「おい、坊主」と声をかけると、「そこにあるタイヤを 転がして外に出せ」と命じる。「どこに持ってけばいいの?」。「『どこ』? 脳ミソあるんだろ? 『外に出せ』と言ったじゃないか」。ロベルトがタイヤを転がして、開口部のすぐ脇に置いて戻ると、「坊主、ラチェット持って来い」と命じる〔従兄なのに、名前も呼ばない〕。「『ラチェット』って何?」。「ラチェットはラチェットだ。取って来い。何て役立たずなんだ!」。その後の、2人の会話の中で、工員が鎮痛剤を持っていないかロベルトに尋ねる。それは、恐らく、まだ子供が小さくて泣くため、夜眠れないから。そして、彼は、「子供ができりゃ、あんたにも分かる。リガにいる奴が、あんたと同じように悩んでた。それが、一発解消。試験管〔体外受精〕を使ったんだ」と話すと、ロベルトは 「妻を替えた方が安くつくんじゃないか?」と言う。こうした会話から、ロベルトにはスマイダという奥さんがいるが、子供ができないことに、ロベルトが不満を抱いていることが分かる〔伏線〕。どうしていいか分からずにいるマルコスを見たロベルトは、「おい坊主、お前、箱が何かは知っとるだろ?」と、ある意味、意地悪く訊く(2枚目の写真)。「『箱』?」。「そう箱だ。何だか分かるな?」。「うん」。「じゃあ、車の中にある奴を持って来い」〔最初から、「車の中から箱を取ってきれくれ」と言えば済んだのに〕。マルコスは、さっき乗る時に奥に押し込んだ重い箱を引き出し、必死になって運ぶが、途中で耐えかねて転び、箱の中身が床に散乱する(3枚目の写真)。「やってくれたな。夕方までには、全部集めとけ。でないと、ここで寝ることになるぞ。お前が、あの女の子にやったようにな」。

家に帰ったマルコスは、祖母に不満をぶつける。「ロベルトは、僕が 役立たずだって」。「気にしない。今日が初日なのよ」。「明日は、船乗りのトコに行っていい?」(1枚目の写真)。祖母は許可しない。「ロバートなんか大嫌いだ」。「文句ばっかし」。祖母に何を言ってもダメなので、翌日、マルコスは自分の判断で船乗りの家に向かう。その次が、観ていて腹の立つシーン。エミリーの母サンドラが、イレーナという女性の家を訪ねる。そして、夫がベルギーで買って来たチョコレートの箱を渡して歓心を買い、「ここは ずっと平和な場所だったわ。だから、あんなことが二度と起こらないようにしたいの。あなたにも、娘さんがいるでしょ」と切り出す。イレーナ:「娘さんに、心理学者を推薦してあげられるわ」。サンドラ:「エミリーなら元気よ。私は、あの子〔マルコス〕の両親を知ってるから、これは始まりに過ぎないと思うの」。「多分、エミリーが怒らせたんじゃないかしら」(2枚目の写真)〔これが正解だと、あとで分かる〕。「エミリーは何も悪くないわ」〔エミリーの嘘を信じ込んでいるのか、悪意があるのか〕。「でも、何か理由があるハズよ」。「私、あの子の絵を見たの。そしたら、あの少年の頭の中がどんなかすぐ分かったわ。精神的な病気なのよ」〔以前、マルコスは「絵画コンクールでは、いつも一等だったんだ」と言っていた→絵の知識もないくせに、この言動は無知に引きずられた悪意としか言えない〕。「どんな絵」。「あの子が忘れていったの」〔エミリーのひどい嘘。そもそも、忘れていくハズがないと思うべき〕。この悪い母親の “マルコスを危険な精神病患者” に仕立て上げようとする策略は、その後、どんどんエスカレートしていく。

マルコスが船乗りの小屋に行くと、外には小屋の中に散らかっていたものがすべて積み上げてある。広い空間だけになった小屋の入口に立ったマルコスは、「ここ、もう、ほとんど教会だね」と、嬉しそうに言う(1枚目の写真)。そして、写真を元にノートに描いたステンドグラスの中央部の絵柄を 船乗りに見せる。絵を気に入った船乗りは、「この父にしてこの子あり」と褒める。マルコスは、ステンドグラスにはめ込む部分を作るための実物大の紙に ノートの絵を拡大して描いていく(2枚目の写真)。マルコスは、小屋に戻って来た船乗りに、「今日から、ステンドグラス、始められる?」と訊く。「正直言って、子供は ガラスを扱うべきじゃない」(3枚目の写真)。「注意するよ」。「指を失うかも」。「大丈夫」。「ならいい。ただし、指を失っても、文句言わないこと」。

そう言ってから、船乗りは、眼鏡をかけ、台一面に書かれた絵を見る。そして、あまりの見事さに、急に本気を出し、「さあ、飛び込むぞ」と言うと、準備作業を始める。そして、マルコスには、紙に書いた絵の上に、半透明のハトロン紙を置き、1枚1枚のガラスの形をバラバラに書き写していくことを命じる(1枚目の写真)。「面白いこと言ったね」。「何が?」。「『さあ、飛び込むぞ』」。「自分が何をするかの助けになる」。「海にいたことあるの?」。「甲板に出るとすぐ、魚に餌をやってた」。「クールなニックネームだけど、ホントの名は?」。「ヨリス」。「ここで、1人ぼっちだね」。「お前さんだって」。「うん、友だちなんかいない。リガじゃ少しいたけど、ここじゃ 絵を描いてたい」。そして、「話すんなら、相手は 僕自身だ」とも言う。この言葉には 船乗りも共感し、「自分自身と話すのが最高だ」と言う。マルコスは、「僕の父さん、あなたを手伝ってた… 今は、僕が手伝ってる」とも(2枚目の写真)。2人の息はぴったり合っている。しかし、マルコスが、「船乗りさん、このステンドグラス、だれにあげるつもりだったの?」と核心に触れる質問をすると、「お前さん、ここへ来るってお祖母ちゃんに言ったかい?」と はぐらかす。マルコスも はっきり答えない。すると、自分が質問に答えなかったことは棚に置き、「嘘は、いっぱい問題を起こす。知ってたか?」と、一方的に注意する。「こんなにたくさんのガラス、ずっと持ってたの?」。「いろんな色があるけど、赤は1枚しかない」と言うと、赤のガラスの上に、マルコスが作った型紙2枚〔唇の上下〕を置く(3枚目の写真)。

マルコスが祖母の家に帰ると、てっきりロベルトの手伝いから戻ったと思った祖母は、新たな用事を言いつける。マルコスを外の小温室に連れて行くと、中のトマトを摘み取り、アルベルトに届けるよう命じたのだ(1枚目の写真)。その頃、アルベルトの家では、狭いキッチンで ロベルトの妻のスマイダが、アルベルトに、夫の酩酊状態について不満を漏らしている〔ロベルトがアル中だと示唆するのは、ここだけ〕。しかし、それを背後で聞いていたロベルトは、父アルベルトが外に水を汲みに行くと、不機嫌さを剥き出しにする。夫の顔を見たスマイダが、「夕食 食べる?」と訊きながら、返事も待たずにスープをよそう。ロベルトは 一口食べて、「これは何だ? 昨日の残りか?」と文句。「スープのどこが悪いの?」。「『スープのどこが悪いの?』だと? 毎日 汗水垂らして働いてるのに、まともな物も食わせん気か?」。「ヒレ肉のフライを作るわ。アルベルトも…」。ここで、父の名が出たことで、ロベルトが急に怒り出す。ちょうどその時、外では、自転車でマルコスが玄関の階段下に着いていた。彼はトマトの入ったバケツを地面に置くと(2枚目の写真)、家の裏手にある梯子を登って、こっそり窓から中を覗く。そこでは、ロベルトとスマイダが激しく言い争っている。水汲みから戻ってきてそれに気付いたアルベルトは、水のバケツをその場に置いて、家の中に駆け込む。しかし、アルベルトが介入する前に、スマイダはロベルトに突き飛ばされ、キッチンの隅に倒れ込む。一歩遅れて飛び込んできたアルベルトは、それを見て、「わしの家でこんなことは我慢できん」と息子を詰(なじ)るが、父親を尊敬していないアルベルトは、「ここは、俺の家でもあるし、そいつは俺の女房だ」と怒鳴ってキッチンから出て行く。スマイダは痛くて、立ち上がることができずに呻くのみ。

翌朝も、マルコスは船乗りの家に直行する。窓から覗いても船乗りが寝ているので、小屋に行って一人で作業を続ける。作業の内容は、ナンバーを書いた型紙を、そのナンバーに該当する色のガラス片の上に置き、硝子切りで形をなぞり(1枚目の写真)、裏から “先端に金属球のついた棒” で軽くコンコンと叩き、切れ目に沿ってガラスを割るというもの。そうやって割ったガラスを並べていくと、描画した通りの “ガラス絵” が出来ていく〔接合はされていない〕。ある程度作業を進めても、船乗りが現われないので、母屋に見に行くと、船乗りはまだ横になっている。「よく寝てるんだね。もうすぐ終わるよ。鉛線をどう入れるのか見せてよ」。船乗りは、横になったまま、「後で、必ず手を洗うこと。鉛は毒だ」と言い(2枚目の写真)。ゆっくりと起き上がる。「お前さん、今日は来ないと思ってた」。「誰も来なかったら、ずっと寝てるつもりなの?」。「ちょっと気分が悪くて」。「お祖母ちゃん、なぜあの包みを届けてるの?」。「1人じゃ村に歩いて行けないからさ」。「病気なの?」。「ああ、糖尿病。砂糖の病気だ」。小屋に行った船乗りは、太い鉛線の切断法を教える。10歳のマルコスでも、全身の力をこめれば切断できる。作業をしながら、マルコスは、「あなたの人生 悲しいね。誰も来ないんだもん」と言う。ところが、船乗りは、笑顔で 「いい人生だよ。どこが悪い? お前さんが来てくれた。だから幸せさ」と言う。それを聞いたマルコスも笑顔になる(3枚目の写真)。そのあとで、船乗りは、鉛を切るのに使ったナイフをマルコスにプレゼントする。「お前さんが、有名なステンドグラス・アーティストになった時、これで覚えててくれるだろ」。「ありがとう」(4枚目の写真、矢印)。

マルコスが祖母の家に帰ると、祖母が、外出の支度をしながら、「やっと帰って来た。リガに行かなくてはいけなくなったから、あんたはアルベルトの家で寝泊まりなさい。毎朝、ロベルトの車で店まで連れてってもらえるわよ」と、恐ろしいことを告げる。「ここにいちゃダメ? あそこには行きたくない」。「いつも文句ばっかり。いつになったら、言われた通りにするの?」。「ロベルトは、スマイダを叩くんだ」。「何を言い出すの。アホらしい」。「ここにいたい」。「アルベルトが待ってる。食べさせて、ベッドも用意してくれるわ。明日の午後には戻るから」。「だけど、行きなくないんだ!」。祖母は聞く耳を持たない(1枚目の写真)。マルコスが、アルベルトに連れて行かれた先は、不要物が山積みになった屋根裏部屋(2枚目の写真)。真夜中になり、マルコスはスマイダの悲鳴で目が覚める〔ロベルトの大きな鼾が聞こえるので、悪漢は眠っている〕。何事かと、階段をこっそり降りて行ったマルコスが聞いた言葉は、アルベルトの、「誰のせいでもない」と囁く声。そして、「奴を殺してやる」と言いながら、“何か” を持って部屋から出て来る姿(3枚目の写真、矢印)。アルベルトが そのまま外に出て行ったので、マルコスは、屋根裏部屋に戻り、窓から様子を窺う。すると、アルベルトが “何か” とスコップを持って早足で歩いて行く(4枚目の写真、矢印)〔その先は、部屋の窓からは見えない〕

翌朝、キッチンで、アルベルトがマルコス用に朝食を作ってくれる。といっても、目玉焼き1個だけ〔何と侘しい〕。そこに、ロベルトが入ってくると、父に 「スマイダはどこ?」と訊く。「眠ってる。気分がとても悪い」。ロベルトは、心配する様子ゼロで、「そうか?」と言うと、マルコスに 「よお、相棒」と声をかける。返事がないので、「年長者には挨拶しろって 教わらなかったのか?」と文句を言い〔マルコスは、アルベルトが「お早う」と言ったのにも答えなかった。確かに、これは良くない。後から分かるが、マルコスの最低の母親がその原因か?〕、次いで、「なんで ここにいる?」と訊く。答えたのは、マルコスでなくアルベルト。「ソルヴェイガがリガに行った」。口に 火の点いていないタバコをくわえたままのロベルトは、食事中のマルコスに、「坊主、ライター取って来い」と命じる。マルコスが席を立たないと、「ライター取って来いと 言っとるんだ!」と強制する。マルコスが隣の部屋に取りに行っている間に、ロベルトは父に、「スマイダは、なんでベッドに寝てない?」と訊く。「病気だから」。ロベルトは、マルコスからライターを受け取るが(2枚目の写真、矢印)、もちろん礼は言わない。代わりに父に、「そいつは、あんたが最近、“病気” って呼んでる奴だな」と、嫌味を言う。アルベルトは、話題が険悪になるのを予見し、マルコスに外に出るよう命じる。マルコスは、キッチンから出てガラスのドアを閉めるが、外には出ずに中の様子を見ている(3枚目の写真、矢印はガラスに映ったマルコス)。アルベルトが 「スマイダは、お前を怖がっとる」と言ったことから、ロベルトの父に対する激しい誹謗が始まる。怒った父は、キッチンを出て行き、マルコスも玄関を出て行く。

マルコスは、アルベルトの家を出ると、いつのように 船乗りの家に向かう。最初に小屋に入るが、姿がなかったので、家に入ると、そこの窓から船乗りが上半身裸になって体を洗っている姿が見える(1枚目の写真)。マルコスにとって衝撃だったのは、船乗りには 巨大な乳房があり、男性だと思っていたのに女性だと分かったこと。マルコスは、騙されていたことに腹を立て、もう帰ろうと 自転車に戻る。マルコスに気付いた船乗りが、「お早う、マルコス。もう行くのか?」と声を掛けるが、マルコスは無視して自転車の向きを変えて帰り始める。そして、「この嘘つき」と責める。「何だって?」。「ヨリスなんかじゃない。女の人だ」(2枚目の写真)。「どう言えばいいか… 秘密は、誰にだってある。私にもね。お前さんにだって」。それだけ言うと、船乗りは家に入っていった。マルコスは、自転車の向きを変え、家の前まで戻ると、置いてあったドラム缶の水に映った自分の顔を見る。

そうすると、数日前の記憶が蘇る。マルコスが森の中を走り、少し遅れてエミリーが続く(1枚目の「」の写真)。エミリーが、「秘密の場所 どこなの?」と訊くと、「ついて来いよ。遅れるなよ」とマルコスが答える。そして、ある瞬間、「あーっ!」と声がして、エミリーが穴に落ちる(2枚目の「」の写真、矢印は落下の方向)。それを聞いたマルコスは、穴まで戻ると、エミリーを見下ろしながら、「遅れるなって言ったろ。僕の秘密 気に入ったか?」と訊く。「お願い、マルコス。助けてよ。ここから出して!」。「そうは簡単じゃないぞ。これから数える。もし、指が僕を向いて止まれば 助けてやる」(3枚目の「」の写真)「もし、君を向いたら、何とかして自分で出るんだな」。ここから後も、以前のシーンと同じ。マルコスは腕を上下させ、最後の単語で腕が下を向いたので、エミリーを穴に残したまま立ち去る。

マルコスは、家の中に入って行き、置いてあったアルバムの写真に見入る。すると、船乗りが出て来て、「結局、行かなかったんだね」と声をかける。「ステンドグラスを完成させたいから」。「私もだよ」。マルコスは、2人の少女が映った写真を指し、「どっちが あなたなの?」と訊く。船乗りは、「私は、怒りっぽくて、いつも誰かと喧嘩してた」と言いながら、右側の少女を指す(1枚目の写真)。「左側は、僕のお祖母ちゃん?」(2枚目の写真、矢印が船乗り)。「私たち、同じクラスだった。その学校を卒業しなかったのは 私だけ」。「普通の女の子だったんだ」。「今と違って、ズボンを履いてる女の子なんかいなかった。でも、私は好きだった。母さんがいないと、ズボンの前にボロ布を詰めて 鏡の前に立ったりしてた」〔彼女はトランスジェンダーだった〕。マルコスは、エミリーを念頭に、「僕だって、女の子になんかなりたくないよ」と言って、笑顔になる(3枚目の写真)。マルコスと一緒に小屋に行った船乗りは、ハンダゴテで鉛を固定しながら、「お前さんに、是非 言っておきたい。ここに来てくれてありがとう。お陰で、この “忌まわしい贈り物” を完成することができる」と、意外なことを言う。

この “忌まわしい贈り物” という言葉と同時に、マルコスにとって最も忌まわしい記憶が蘇る。場所は恐らくマルコスが住んでいたリガのアパート。時期は、マルコスがリガを離れる直前。マルコスの母スヴェタが、義母に当たるソルヴェイガに向かって、「もう時間がない。鍵は郵便受けに入れとくわ」と言い、アパートを出て行こうとする。それを、アパートに残っているマルコスが聞いている(1枚目の写真)。ソルヴェイガは、「スヴェタ、待って! 話があるのよ。アパートは売るの?」と訊く。「貸すわ」。「坊やは、連れて行くんでしょ?」。「あたしたちには出来ないって、何度言わせる気?」(2枚目の写真)。「あの子には母親が必要だわ。子供は贈り物よ」。「ずっと前に言っておくべきだった。ガキが産まれた時にね… あたしには、初めから、あんな “忌まわしい贈り物” なんか要らなかったのよ!」(3枚目の写真)。「よく そんなことが言えるわね!」。「言えるわよ。ガキが産まれたら、マリスもまともになるんじゃないかと期待してたけど、あいつったら下らない絵に はまり込んだだけ」。「他人のせいにしないで」。「何よ、その教師っぽい口調。そんなの あんたの学校でしてりゃいい。あたしゃ生徒じゃないのよ!」。「いい加減になさい!」。なんという母親だろう! スヴェタという名は、偶然だが日本語の “スベタ” と内容までそっくりだ。その悪い思い出を残したまま、マルコスは、最後に残った赤いガラスを割り始める。しかし、切り方が悪かったのか、叩き方が悪かったのか、1枚しかない赤いガラスを壊してしまう(4枚目の写真、矢印)。マルコスは、動揺して小屋を出て行く。

マルコスが森の中で時間を潰し、アルベルトの家に行くと、家の前に救急車が停まり、ストレッチャーに乗せられたスマイダが運ばれてくる(1枚目の写真)。救急車を呼んだアルベルトが付き添っているが、救急車には乗らない。リガから帰ってきていた祖母が、「何が起きたの?」とアルベルトに訊くが、彼は 「ある種の女性の問題だ」としか答えない。祖母に自転車を取られたマルコスが歩いていると、後ろからエミリーの兄と、もう1人の少年が自転車で近付いてくる(2枚目の写真)。そして、頭に石をぶつけられて立ち止ったところに、太った兄が行く手を阻み、その後は、卑怯にも2人がかりでマルコスを殴ったり蹴ったりして集中攻撃する(3枚目の写真)。

幸い、アルベルトがその暴行に気付き、「お前たち、マルコスを殺す気か? 2対1とは、何てクズどもだ!」と一喝して追い払う。そして、倒れ込んだマルコスの横に体を寄せ、「大丈夫か?」と訊く(1枚目の写真)。アルベルトはマルコスを家の中に連れて行き、冷蔵庫の製氷皿の氷を布で包んで頭に当てさせる。マルコスは自分のことより心配なので、「アルベルト伯父さん、スマイダさんは病院に連れてかれたの?」と訊く。「ああ」。「いつ、戻るの?」。その時、窓の外を見たアルベルトは、びっくりして飛び出して行く。何事かとマルコスが窓から見ていると、以前、エミリーを発見した犬が、アルベルト家の庭の端に鼻を付けている。そこに、デッキブラシを振り上げたアルベルトが突進して行き(2枚目の写真)、犬を追い払う。そこでマルコスは見るのをやめて、頭を再び氷で冷やす(3枚目の写真)。しかし、映画では、そのあと、アルベルトが地面から掘り出した包みを持って戻ってくるところが映される。昨夜、アルベルトは何かを持って庭に行き、シャベルで埋めた。犬がそれを嗅ぎつけたので、掘り返して家の中に持って来たのだ。

次の1枚目の写真は、少し前のシーンだが、一連の場面の一つなので、ここで紹介する。祖母は、マルコスに、「どこにいたの?」と訊く。「自転車に乗ってた」。「嘘はやめなさい」。そう言うと、祖母は、ロベルトから聞いた話として、あれから一度も手伝いに行かなかったと指摘する。「ロベルトの店は嫌いだって言ったよ」。祖母は、マルコスの自転車を借りてどこかに行き、マルコスは歩いて家に戻ろうとして、先ほどの2人の暴行に遭う。さて、その祖母が向かった先は、船乗りの家だった(2枚目の写真)。2人の間の長い会話は紹介しないが、そこで分かったことは、①祖母が18の時に、船乗りと ”何か” あった。その結果、“18歳の祖母” は、他の人間から変な目で見られるようになった、②船乗りは “18歳の祖母” をすごくきれいだと思っていた、③最終的に、船乗りは精神病院に入れられた、④船乗りは、母親の死後、男として通すようになり、誰からも離れて1人で暮らし続けた〔いつ、精神病院から退院できたのかは不明〕、というもの。その時点は恐らく1960年代。そして、ラトニアはソ連邦の一部だった。そんな中で、トランスジェンダーが理解されるハズがない。2人の奇妙な恋は、2人を大きく変えた。祖母は意固地な教師となり、映画に一度も登場しない男性と結婚し、生まれたマリスは、スヴェタのような下らない女と結婚した。名前が最後まで明らかにされない “船乗り” は、誰とも会わず、男として孤独な生涯を送ってきた。

場面は、村の公民館での定例の合唱団の練習に替わる。前回と違い、サンドラが振り撒いた悪意の噂のため、冷たい視線を浴びるマルコスを見かねた祖母は、楽屋で待っているよう指示する。そこは、楽屋というより、使われなくなった舞台道具の置き場だった。マルコスは、その中にあった 赤いライトの点く旧式の大型懐中電灯に興味を持ち、赤いガラスを外し、それにライトを当ててみる(1枚目の写真)。自分が不注意で割ってしまった赤いガラスの代用品が見つかった! マルコスは、誰にも見つからないようなルートで公民館を出ると、全速で 船乗りの家に向かって走る(2枚目の写真)。マルコスが、「赤いガラス見つけたよ!」と喜び勇んで家に入って行くと、彼が見たものは(3枚目の写真)、床に倒れた船乗りだった。マルコスは、すぐ横に跪き、「赤いガラスがあったよ」と声をかけるが、全く反応がない。触ってみると冷たい。マルコスは、祖母に連絡しなければと、家を飛び出し、走ってきた道を逆走する。今度は、喜びではなく、悲しみに満ちて。

合唱団の練習が終わると、どこまでも悪意に満ちたサンドラは、マルコスの画帳の絵を持参し、イレーナに見せる。他にも、2人の女性が集まってくる(1枚目の写真)。絵を見る力のある女性は、「かなりの画才ね」と評価するが、サンドラは、「そんなものないわよ」と、横柄にも全否定。絵の分からないイレーナも、何も分からないくせに、「深刻な精神状態の兆候ね」と、口裏合わせをする。サンドラ:「これ見て。純粋な暴力だわ。あの子の頭の中にあるのよ」。この根性曲がりは、自分の息子がマルコスに怪我を負わせた事実など無視し、ひたすらマルコスを悪者扱いしようとする。一方のマルコス、涙をぬぐって公民館に入ると、人に会わないようなルートから練習場に一人残っていた祖母のところに行く。マルコスの様子がおかしいので、「何があったの?」と心配して祖母が駆け寄る。「船乗りが!」。「どうしたの、マルコス? なぜ泣いてるの? 何があったの? 船乗りがどうしたの?」(2枚目の写真)。ここで、場面がガラリと変わる。少し前に家に戻ったロベルトは、家の中に誰一人いず、床に血痕のいっぱい付いた布が落ちていたので、アルベルトに問い質そうと公民館までやって来ていた。そして、父を見つけるとトイレに連れて行く。そして、脅すように、一体何が起きたんだ?」と訊く(3枚目の写真)。「彼女は出てった」。「どこへ? どこに行った? どこだ?」。「もう戻って来ん。お前がやってきたことの報いだ」。「俺のせいだと? 俺が何をした?」。トイレの個室が開いて男が出て来たので、ここで会話は中断する。

祖母が、警察に “船乗り” の死亡の電話を掛けていると、その脇では、相も変わらず、サンドラがマルコスの絵にケチをつけている。「これなんか明らかだわ。絵は断片的で奇妙、隠れた攻撃行動の現われね」(1枚目の写真)。最初にマルコスの絵を評価した女性が、たまりかねて、「どの芸術家にも、独自のスタイルがあるものよ。あなたの論理だと、芸術家はみんな精神異常者になってしまう」と口を出すが、サンドラは聞く耳を持たない。逆に、イレーナに、「専門家としての意見書を書いてもらえない?」と頼む。この場面から、4度目のフラッシュバック。事件の一番最初に戻り、全貌が初めて明らかになる。その日、マルコスはエミリーの家の柵の中のテーブルで、“上記の1枚目の写真” の絵を描いている。テーブルの反対側にはエミリーが座り、羽根のようなもので遊んでいる。そこに、自転車で1人の少年〔後で、マルコス虐めに加わる少年〕がやって来て、クリスチャン〔エミリーのデブ兄〕いるか?」と訊く。「呼んでくるわ」。エミリーは、玄関まで行くと兄を呼ぶ。出て来た兄に、「一緒に行ってもいい?」と訊くが、「お前は、ママが戻って来るまで家にいるんだ。マルコスと遊んでろ」と言われる。「マルコス、退屈なんだもん」。エミリーは、テーブルに戻ると、マルコスに、「どうして、絵ばっかり描いてるの?」と訊く。「好きだから」(2枚目の「」の写真)。「学校ごっこしましょ。かくれんぼでもいいわ」。「やだね」。「絵、誰から教わったの?」。「父さん」。「絵描きさんだったの?」。「ああ」。「今、どこにいるの?」。「どうだっていい」。「何、隠してるの?」。「質問ばっかしてると、早く年食うぞ」。それを聞いたエミリーは、マルコスの画帳を奪って逃げる。「返せよ」(3枚目の「」の写真、矢印)。「やだもん」。「返せ」。そして、家の中に駆け込む〔だから、マルコスの絵がサンドラの手元にあった。以前、愚母が 「あの子が忘れていったの」と言ったのは、完全な間違い〕。マルコスは、「返せ!」と大きな声で言うと、玄関から出て来たエミリーは、「嫌よ。それに、知ってるんだから… あんたのママは、あんたなんか欲しくなかったし、あんたのパパは麻薬中毒で、もう死んじゃった」と、生意気な口をきく〔噂好きのサンドラが近所にバラまいたのを聞いていた〕。怒ったマルコスは、「お前はバカだ。何も分かっちゃいない」と批判すると、「分かってるわ!」と生意気に反論。「分かるもんか! 絵を返せ!!」。これに対し、エミリーは、醜いアッカンベー(4枚目の「」の写真)〔如何にもサンドラの娘〕。そして、家の中に入って行ってしまう。ここで、マルコスは 「僕の秘密、見たくないか?」と玄関に向かって言う。すると、生意気エミリーが、「見たい」と言って顔を出す。「じゃあ、走るぞ」。そして、2人は走り始める(5枚目の「」の写真)。この先が、先に出て来た “森の中の駆けっこ” につながる。事件の推移がはっきり分かると、すべての原因は、エミリーにある。彼女は絵を盗み、マルコスを最もひどい形で罵倒した。マルコスに咎があるとすれば、合唱団の練習中にサンドラがエミリーの行方不明を訴えたのに対し、祖母が、「マルコス、居場所知ってる?」と訊いたのに、マルコスが穴の中だと言わなかったこと。

そして現実。マルコスは、自分の絵が批判されているのを見て、「返してよ。僕の絵だ!」と言うなり、取り上げる(1枚目の写真)。そして、祖母に対して、「お祖母ちゃんは 僕が絵を描くの嫌がってたけど、船乗りは喜んでくれた」と言う。その言葉尻を捉えた 本質的に性悪なサンドラは、祖母に向かって 「ソルヴェイガは、ガキを同性愛者のトコに行かせてたのね」と、悪たれ口を叩く(2枚目の写真、矢印は絵)。祖母は、「なにそれ? 口に気を付けなさい」と 非常識な場所での非常識な発言を諫める。懲りないサンドラは、「麻薬中毒を育てた時、もっと気を付けるべきだったのよ!」と、さらに祖母を中傷する。この言葉に怒ったのがマルコスで、「僕の父さんは麻薬中毒じゃない! 何も知らないくせに!」と叫ぶと、サンドラに体当たり。2人が取っ組み合う。サンドラにチョコレートで買収されたイレーナは、明らかにサンドラが悪いのに、マルコスに止めるよう注意する。そこに、父と喧嘩分れした形の “サンドラと同レベルのロクデナシ” のロベルトが現われると、マルコスを床に投げ飛ばす。祖母は 「ロベルト、何するの!」と叫ぶと〔これで、ようやく祖母にも、ロベルトの狂暴さが分かった〕、マルコスのそばに跪いて 「怪我しなかった?」と優しく訊く。マルコスは、この村そのものを嫌悪し、何も言わずに公民館を飛び出して行く。マルコスは、真っ暗な雷雨の中を走って祖母の家まで帰る。祖母は、マルコスが、公民館に残していったバッグを持って寝室に入ってくると、「何とかなるから」と何回も声をかけ、「私と船乗りは、子供の頃、友達同士だったの」と打ち明ける。「知ってるよ。“彼”、全部話してくれた。女の子だったと」。「私が、全てを台無しにしてしまった。“彼” は、私のせいで学校を中退し、それから病気になったの」〔中退と病気(糖尿)の間にはかなりの年数のギャップがあると思うが…〕「できるだけ助けようとしたんだけど、“彼” に必要だったのは薬の包みじゃなくて、友達だったんだわ」。マルコスは、「“彼”、すごく孤独だった。ステンドグラスを完成させたがってた。でも、僕… 大事なガラスを割っちゃって」と、すすり泣く。祖母は 「でも、友達になってくれたわ」と言うと、マルコスを優しく抱きしめる(4枚目の写真)。祖母が部屋を出て行くと、マルコスは、ステンドグラスを何とかしようと思い立ち、“彼” からもらったナイフと、楽屋で見つけた赤いガラスを取り出すと、レインコートを着る。

アルベルトは、家に戻ると、「これから、あるものを見せてやる」と言い、生意気なロベルトを雑然とした部屋に連れて行く(1枚目の写真)。そして、床板を数枚外し、「犬に掘り返されることを怖れてな」と言いながら、木の箱を取り出す。そして、態度で、“自分で開けろ” と示す。ロベルトが蓋を開けると、中には布に包まれた何かが入っている。ロベルトがそれを取り出して中を見ようとしていると、小さな手が1本出てくる(2枚目の写真、写真)。ロベルトは、びっくりして包みを床に放り出す。それから、棒きれで布をめくると、中には胎児の死体が。アルベルトが、「お前がスマイダを殴った後、わしの部屋で産まれた。死産だった。彼女は、怖くて、お前の息子を妊娠してることが言えなかったんだ」と打ち明ける。それを聞いたロベルトは、あまりのことに愕然とし(3枚目の写真)、絶叫すると、部屋を飛び出し、降りしきる雨の中を外に出て行き、車に乗り込む。

すべてに絶望したロベルトは、自分の愚かさに涙を流し、そのままエンジンをかける。そして、雨の中を走り始める。同じ頃、今回マルコスが起こした事件に関する意見書の作成についてイレーナと話し合った後、サンドラも車に乗り込み、雨の中を走り始める。2台の車が橋にさしかかった時、ロベルトは、溢れる涙を掌で拭おうと気を取られ、反対側の車線に出てしまう(1枚目の写真、手前がロベルトの車、ライトだけ見えるのがサンドラの車)。サンドラは、対向車を避けようと左にハンドルを切り、そのまま欄干を突き破って橋から落ちる(2枚目の写真)。車は、運転席を下にして、水面に直角に河床に突き刺さる。その時、祖母の家から “彼” の家に自転車で向かっていたマルコスが、橋の上にやってきて、橋の上で停まっている車に目を留める(3枚目の写真)。中に乗っていたロベルトに、事故を起こした自覚があるのかどうか分からないが、マルコスと目が合うと(4枚目の写真)、車をそのまま発進させていなくなる。残されたマルコスは、反対側の “なくなった欄干” の向こうを確認しようと自転車を降り、歩いて橋の端に立って川を見る。車が斜め横になって川に刺さっていた。

マルコスは、橋のたもとから川原に降りて行き、さらに腰と胸の中間まで水に浸かって車まで歩いて行く。そして、車の上に這い上がると、助手席のドアを開けようとするが開かない〔水は運転席側だけなので、水圧のせいではない。普通なら運転者がロックを外せば済むことだが、そちらの方が水に浸かっているので、外せないのだろう〕。マルコスは、水中に潜って石を取って来ると、その石を助手席の窓に何度も叩き付け、ようやく割ることに成功する(1枚目の写真、矢印は石)。残った危険なガラスを石で落とすと、“彼” からもらったナイフを取り出し、サンドラのシートベルトを切断する〔運手席側が水没しているので、放っておけば溺死の可能性がある〕。そして、自由になったサンドラの体を、助手席の窓から外に出す(2枚目の写真)。岸に上がった2人は、しばらく並んで座っている(3枚目の写真)〔これで、サンドラのマルコスに対する常軌を逸した敵意は感謝の念に変わるであろう〕

マルコスにはやるべき仕事があるので、サンドラを残して “彼” の小屋に行くと、さっそく赤いガラスを取り出し、慎重に切り込みを入れ始める(1枚目の写真)。そして、下唇と上唇を上手に2つに分ける(2枚目の写真、左手が下唇、右手が上唇)。そして、両唇の周りの鉛をハンダゴテで固定する(3枚目の写真)〔マルコスがハンダゴテを持つシーンはこれが初めて〕。マルコスは出来上がった “ステンドグラスの中央部” を既存の部分にはめ込み、満足そうな笑みを浮かべて、以前 “彼” が言っていた言葉「さあ、飛び込むぞ」を捧げる(4枚目の写真)。

朝日がステンドグラスから差し込み始め、マルコスは、ステンドグラスの前に横になって 自分が作った女性の顔をじっと見る(1枚目の写真)。そのうちに、一晩中 働き続けた疲れが出て ウトウトしてしまう。すると、幸せだった幼児の頃、父に見られながら、ガラスに色々な色を塗っていた時の記憶が蘇る(2枚目の写真)。父は、マルコスを褒め、塗り足りないところに絵の具を塗るよう教える。

そこに、祖母が心配して入ってくる。「ここで何してるんだい。マルコス坊や、起きて。さあ、おうちに帰ろうね」。「終わったよ」。「何が終わったの?」。祖母が振り向くと、そこには朝日を浴びて輝くステンググラスが(1枚目の写真)。「まあ… 船乗りが…」。祖母は、マルコスの側頭部にキスし、「何て素敵なの」というと、あとは2人でステンドグラスを見つめ続ける(2枚目の写真)〔このステンドグラスは、必ずや公開され、マルコスへの評価は高まるであろう〕

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